夏目影二郎始末旅 |
江戸時代末期、天保の大飢饉(1833ー39)を背景に、鏡新明智流の達人・夏目影二郎が大活躍、腐敗をきわめる「八州廻り」たちを退治していく。国定忠治がでてきてびっくり。私にとってグッドタイミング。おもしろかった。
「影二郎初登場の記念碑的名作」だそうだから、これから続き物をずっと楽しめそうだ。
著者のシリーズ物が書店に並んでいるのは知ってはいたが、読んだのははじめて。
おもしろいことがわかったので、当分退屈せずにすむ。
著者は時代小説を100冊以上書いたとのこと。「100冊狩り」に挑戦する人もいそうだ。このおもしろさでは挑戦しがいがあるだろうが、人生は短い。思案中。「出張の友」としてはベストか。
追記
途中から「文庫書き下ろし」版にかわり、「夏目影二郎始末旅」がシリーズの統一名称に。
現在、第4弾「妖怪狩り」。影二郎、父勘定奉行の命をうけ、凶悪な「押し込み強盗殺人」の汚名を着せられた「親友」(?)忠治と会うために、彼が潜伏する会津南山に侵入中(南山は「南山御蔵入五万石騒動」で有名)。やはりおもしろい。いろいろよく調べてあると感心。
読了。おもしろかった。今回は忠治一家がかなり活躍。不思議に忠治の影が薄く、子分「蝮の幸助」のキャラが立っている。忠治をはっきり打ち出すのはむずかしいのだろうか。勘定奉行職についている父の影もうすい。まあ、影二郎の知略と豪剣が楽しめればよいのだが、影二郎ほどの男が命にしたがうのだ、父も今少し立派でもよい気がする。
追記
「百鬼狩り」読了。老中水野忠邦の命で長崎へ。途中唐津。私のお気に入りの土地が舞台。異国情緒あふれるダイナミックな海洋活劇。これでもかこれでもかと剣戟。「桃井の鬼」の豪剣が冴える。ほろりとさせられる場面もあり、楽しめる。
追記
「下忍狩り」を読んでいる。父秀信、大目付に出世。舞台は、西の長崎から一転、北の果て下北半島。南部VS津軽の宿命の争い。白忍者(南部)、黒忍者(津軽)相乱れて、沈没オロシア船の金貨を狙う。恐山のイタコに、船とともに沈んだオロシア船船長をあの世から呼びだし「真実」を語らせたのには、思わずニヤリ。船旅苦手な「別嬪」おこま姉さんもコルト拳銃をマスター、「水芸」も好調子。読了。恐山「大噴火」の中、忠治一家も助っ人登場、虚実乱れたファンタジックな大剣戟。粋な結着。ナポレオン金貨の行方が気になる。
追記
「五家狩り」読了。今回の舞台は尾張名古屋。家康が付け家老としてつけた成瀬隼人正家の独立をめぐる内紛の処理。独立運動のバックにいるのが老中首座水野忠邦、その命をうけて、影次郎尾張に乗り込むのだが、例によって「心と耳に聞いてなんとかせよ」風のあやうい命。木曽五木の木曽川下り、横流し、犬山藩、尾張藩の忍者がからむ大活劇。「三枝謙次郎」と名乗る「松平六つ葵」の印籠を身に着けた武士が魅力的。はじめの部分に登場する、妹紀代、兄紳之助の話、桃井道場の弟弟子にあたる田中甚助などおもしろい。(写真は犬山城夜景)
追記
「鉄砲狩り」。幕閣、諸大名を集めた鉄砲、大砲大演習の最中、あろうことか最新式の西洋銃10挺と大砲の設計図が何者かに盗まれ、幕閣大混乱。その最中、影次郎が若菜とともに向かうのは、何と川越。私が高校生の頃毎日通った町だ。なつかしの喜多院、札の辻、時の鐘、新河岸川・・。盗まれた銃は偶然川越に。その「小江戸」川越で、放火等いろいろな事件が起きる。影で糸をひいているのが「妖怪」鳥居耀蔵。目下のところ、若菜が何者かにさらわれて、影次郎、愛犬「あか」と必死の探索、川越支藩の前橋に向かう。ここは忠治一家のホームグランド。その一家は、切れ者の新任八州廻りに追われて虫の息。退勢一挙挽回のため密造新式西洋式短筒を狙う。蝮の幸助、忠治の登場が多くなっている。捕縛され刑場の露と消えた子分たちも多くなっている様子。心配である。若菜は無事確保。(写真は新河岸川水運:川越と江戸を結んでいた。影次郎と若菜はこの水運を使って川越に向かった。以前親戚の家の近くの川が「新河岸川」と知って、このような所になぜ新河岸川?と不審に思ったものだ)
追記
「奸臣狩り」。徳川の世の影の世界をとりしきり、影次郎にさまざまな便宜を与える「浅草弾左衛門」が魅力的だが、実在の人物とは知らなかった。不勉強。彼を主人公とする小説もあるようだ。水野忠邦、天保の改革を開始。経済の原則を無視したぜいたく禁止例。影二郎の実家「嵐山」までも店仕舞に追い込まれる。影二郎、祖父祖母孝行で若菜とともに草津に湯治旅。草津は雪の中。忠治一家が草津に入り込んだという情報に、八州廻りが暮れの草津に大包囲網。追いつめられる忠治。銃で下腹部を撃たれ蝮の幸助負傷。多くの手下を失うも、忠治かろうじて脱出。江戸に戻ったところ、情勢急展開。「妖怪」鳥居耀蔵大攻勢、影二郎父秀信、大目付解任、謹慎を命ぜられる。やがて切腹の沙汰・・その間、前将軍が愛妾に与えた書付をめぐり、前田家当主を巻き込む大騒動。その解決が先か、父秀信の切腹が先か・・スリリングな展開。影二郎、老中首座水野忠邦、前田家当主と堂々の交渉。北町奉行遠山の金さん、本格的登場。影二郎、金さんコンビの活躍が楽しみ。
追記
「役者狩り」。「だめよだめよ」の天保の改革の最中、歌舞伎役者七代目市川団十郎を襲う妖しい猿面冠者の一団。北町奉行遠山金四郎、影二郎に団十郎の守護を依頼。影二郎の看板「南蛮外衣」盗難さる。品川沖に謎の「海城」建設。謎の異人(亜米利加か)の暗躍、影に「妖怪」鳥居耀蔵、幕閣中枢。「府城目前に一夜城風海城」建設の陰謀を阻止すべく、影二郎、影の勢力結集。ペリー来航20年前の「秘話」炸裂。影二郎の暮らす長屋の隣部屋に場違い風な美女が入居、あいさつされるのだが、その後まったく登場せず。彼女はどうなったのか。このところ小笠原近海に中国漁船が大挙来襲。珊瑚の密漁とか。江戸末期の黒船揺さぶりと似ている。漁船という覆面をしているのも今回の「海城」と似ている。中国共産党のあまりに古典的な手法に驚くが、隣りに巨大な中世国家が存在する現実は現実として対処するしかない。
追記
「秋帆狩り」読了。西洋砲術の導入を主張する高島秋帆陥れを執拗にねらう「妖怪」鳥居耀蔵。伊豆代官・江川太郎左衛門から秋帆守護を依頼された影二郎、今回はおこまや愛犬「あか」たちと伊豆への旅。相変わらずの大活躍なのだが、今回は、影二郎が(秋帆がかくまわれた)斉藤弥九郎の練兵館道場を訪問、門弟たちとの稽古に応じる話がおもしろかった。桃井春蔵士学館道場の鬼と練兵館道場の門弟との稽古など、なかなかない(!?)。「解説」が物語の時代的背景である天保期の解説をしているが、これもよかった。水野忠邦の天保の改革は1841年から44年。阿片戦争が始まったのが1840年だから、天保の改革はイギリスの清国攻略と時を同じくしている。ペリー来航が1853年。幕府崩壊が1867年。このシリーズが幕末動乱期の直前の時代を舞台にしていることがわかる。その意味では、そんなに昔のことではない。考えてみれば、インド、清と西から次々に植民地化してきたイギリスと東からやってきたアメリカが出会うのが日本、というのはおもしろい構図。東西はさみうちで、改革に失敗した幕府が大あわて、というのはよくわかる。それを「明治維新」というかたちで切り抜けたのは立派。下絵は、阿片戦争(1840-41)時、イギリス海軍軍艦に吹き飛ばされる清軍のジャンク船
追記
「鵺女狩り」読了。再び伊豆の旅。前作のおまけ風。ユニークなのは、父常盤秀信との旅。これまで影のうすかった秀信だが、今回影二郎とともに伊豆遍路旅。父子の旅はなかなかよい。「鵺女」の襲来、幻術炸裂は作者得意のファンタジー。ひと休み作か。
追記
「忠治狩り」読了。忠治股肱の子分・日光の円蔵、捕縛、斬首さる。忠治、追手を逃れて奥州路。影二郎、愛犬あかとともに、上州、日光経由で奥州へ。雪の金精峠越え、謎の赤装束女しのび集団。天童、横手、最上川。第五話「忠治死す」。蝮の幸助大活躍。これもややひと休み作。
追記
「奨金狩り」読了。死んだはずの国定忠治が生きているという噂が江戸に流れる。噂をたしかめよ、と大目付・父常盤秀信の命。影二郎、愛犬「あか」とともに、再び上州に向かう。忠治・影二郎の首に500両の賞金。やがて浮かび上がる将軍暗殺の陰謀・・蝮の幸助がいい味を出している。シリーズ14作目。次作が最終のようだ。
追記
「神君狩り」を読む。15作目、「夏目影二郎始末旅」シリーズ最終作。忠治、中気に倒れ、捕縛される。「蝮の幸助」がながらえたのはよかった。シリーズを通じてよい味を出し続けた幸助、親分忠治を超える存在感。「国定忠治」の描写は著者にとって難しかったようだ。影二郎というスターとの関係上、忠治を適度に光らせる程度におさめざるをえなかったのだろう。