を読んだ。伊東 潤著。読んだといっても、例により流し読み。しかし、大変興味深く読んだ。どなたにも一読をおすすめできる。一般には西廻海運を確立した商人として知られている河村七兵衛瑞賢(1617?ー1699)の物語。西廻海運のほか、東廻り航路、新潟や大阪の治水工事、会津鉱山採掘等の困難な仕事を幕府から請負い、そのすべてで成功したことが描かれている。江戸初期、保科正之等幕閣の構想の下、国のインフラ整備に大きく貢献した人物だ。さしずめ江戸版渋沢栄一。新井白石との関わりも興味深かった。物語途中で、中江藤樹「翁問答」の一節、
「人間に生まれて徳を知り、道を行わざれば、人面獣心とて、形は人間なれども心は獣と同じこと」
が引用されていて、これも参考になった。このところ東京都知事等に感心できない人たちが続いた。それに対する警鐘という意味もある出版だろうが、私は河村七兵衛瑞賢という人物そのものが気にいった。
*翁問答:江戸初期の儒学者中江藤樹の著。1640年(寛永17)から翌41年にかけて、藤樹33~34歳のおりに書かれた。‥藤樹は、人が単に外的規範に形式的に従うことをよしとはせず、人の内面(心)の道徳的可能性を信頼し、人が聖人の心を模範として自らの心を正しくすることこそが、人に真の正しい行為と正しい生き方をもたらすと説き(心学の提唱)、また父祖への孝のみでなく、いっさいの道徳を包括するところの孝の道を説いた。(引用:日本大百科全書(ニッポニカ))
新井白石は17歳の時この本を読んで学に志したとのこと。「人の内面(心)の道徳的可能性を信頼し、人が聖人の心を模範として自らの心を正しくすることこそが、人に真の正しい行為と正しい生き方をもたらす」というのは私の授業設計のコンセプトと近いか同じ。遅まきながら、中江藤樹に関心をもった。
追記
授業で使えそうな文章はないかと考え、河村瑞賢についてネットを確認してみた。強欲商人と評する文章もあったが、新井白石が激賞するくらいだから、「それも一つの見方」程度の理解でよさそうだ。残念ながら、今回充実した文章は見当たらなかった。「江戸を造った男」が今のところベストか。かなり残念。ただ、大きな貢献をした人物に間違いはない。人生はかなり波乱万丈である。保科正之、稲葉正則等役者も十分である。大きくプラスの話でもある。巨大地震、噴火の脅威のもと国土の強靭化が現在の国家第一の課題である。国家のベースをつくるに大きく貢献した河村瑞賢はNHK大河ドラマにふさわしい、というのが私の結論。よいシリーズができるのなら他局でドラマ化してもよい。
2017/2/28
古田良一「河村瑞賢」(吉川弘文館、1964年)を読んだ。碩学によるすぐれた瑞賢伝。瑞賢については資料がきわめて少ないなか「できるだけ正確を期して、疑わしきは採らぬことにした」とのこと。ウキウキしながら読んだ。ひとつ前の世代の碩学の達意の筆が楽しめる。コンパクトなのもよい。「江戸を造った男」を読んでいるので、その学問的バックを確認しながらの読書だった。「江戸を造った男」の方がはるかに情報量が多い。他の資料にあたっている、想像を加味しているので、これはもちろん当然のこと。新井白石の『奥羽海運記』や『畿内治河記』の現代語訳があればありがたい。