身の毛もよだつ謎 |
ネルソン・グッドマン(Goodman,1955)の「帰納の新しい謎」(the new riddle of induction)の話
帰納の新しい謎とは次の問題である:
たとえば「グル-」(grue)という述語を考える。それは「グリ-ン」(green)から次のように構成される一風変わった述語である:個物xが「グル-」であるのは,(1)xは特定の時点t以前に調べられたものであり,xはグリ-ンである,もしくは(2)xはtより後に調べられたものであり,xはブル-であるときおよびそのときである。tに先立つある時点tにおいて,それまで観察したエメラルドがみなグリ-ンであったとする。定義よりそれまで観察したエメラルドはみなグル-でもあったことになる。このとき,通常行うように「すべてのエメラルドはグリ-ンである」と一般化すべきか,それとも「すべてのエメラルドはグル-である」と一般化すべきか?
帰納により同様に指示されるようにみえる2種類の一般化がまったく異なる予測を含意することに注意。「すべてのエメラルドはグリ-ンである」は「t以後見出されるエメラルドはすべてグリ-ンである」,「すべてのエメラルドはグル-である」は「t以後見出されるエメラルドはすべてブル-である」をそれぞれ含む。
一口に「帰納」と言っても、用いられる述語のシステムにより予測内容は異なってくる。どの述語システムに基礎を置く帰納が健全なのか、健全な帰納とそうでない帰納をどこで区別するか、というのがグッドマンの問題提起である。それ自身は認識論における一つのパズルであるが、クリプキがそれを使い、ことばの意味に関する「ウィトゲンシュタインのパラドクス」を述べ、ポピュラーになった。
「帰納の新しい謎」は「グルーのパラドクス」the grue paradox)とも呼ばれる。私は幸か不幸か日本語を母国語とするので、英語は不得意。遺憾にも"gruesome"という語があることを知らなかった。たまたま今朝知り、辞書(merriam-webster.com)を調べたところ次のようだった。
grue·some 恐ろしくて身震いするほどの, 身の毛もよだつ
Variant(s): also grew·some \ˈgrü-səm\
Function: adjective
Etymology: alteration of earlier growsome, from English dialect grow, grue to shiver, from Middle English gruen, probably from Middle Dutch grūwen; akin to Old High German ingrūēn to shiver
うむ、善人の掛詞か。