アンドレ・ヴェルダン「懐疑主義の哲学」 |
フランス語の原著は1971年刊。
第一部ギリシャ懐疑主義、第二部近代思想における懐疑主義、という構成。
コンパクトな好著。
「バークリからヒュームとカントを通ってフッサールにいたるまで、哲学の流れはすべて、多くの点において、ギリシャの懐疑家たちが糸口をつけた考察の延長線上に描かれている」
と序文にある。
この観点ー正しいと思うーから、懐疑主義の歴史が明晰に描かれている。
著者は冷静な観察者として歴史記述を行っている。
訳者としてはそれが切り捨てた部分に関心があるようで、本文を補う意図だろうが、あとがきで、懐疑家の急進的な激した側面について、若干の記述を行っている。
ヒュームについては別の説明の仕方がありうるのではないかと感じた。
しかし、全体として、セクストスを思わす冷静な論述がよい。
コンパクトであることもよい。
1982年出版の訳書がいまなお入手できるのもうれしい。
本書の使い道はいろいろありそうだ。
非正統的だろうが、本書を哲学史の講義のテキストに使うのもよいだろう。
懐疑論は、西洋哲学のコアにある形而上学、宗教思想の特質を浮き彫りにするよい視点を与える。
(逆に言うと、懐疑論史を欠いた西洋哲学史は本質的な情報、背景を欠いていることになる、と思う。)
本書はAmazonに見当たらず、出版社から取り寄せた(丁寧な装丁に感心)。
在庫が残り少ないのではないかと心配である。
本書の「私の道具箱入り」決定。